ハンナ・アーレント

グイグイと心に詰め寄る骨太な映画だった。「そこに意志はなく、冷静な判断力もなく、命令のみが彼を動かした」。ナチス政権下、悪の解釈をめぐるユダヤ人哲学者ハンナの闘いにラストまで心も体も硬直しっぱなし。「奴らは悪以外何ものでもない」と心に鍵をかけてしまった人々にとって、善を想起させる哲学者の発言は、平和な町に自ら爆弾を投下するようなものだ。それでも彼女は真理を追究する姿勢を崩さない。面白いのは、彼女もナチス占領下の生き残り。だからこそ火は激しく燃え上がる。鋼(はがね)のような哲学って面倒くさいけど、硬直したものを破壊する力がある。